この謎に決定的な光を当てたのが、東洋学者・白川静による漢字学・文字学の金字塔である。白川説によれば、古代商代において「犬」は単なる家畜ではなく、聖なる領域を邪気から守り、土地を清めるための「呪術的生贄」として極めて重要な役割を果たしていた。
城壁の建設時や王の墓を掘る際、基盤の底に犬を埋めて土地の神を鎮める儀式が行われていたことが、現代の考古学的な発掘調査でも証明されている。犬が持つ鋭い嗅覚と霊性が、目に見えない悪霊を祓うと信じられていたのだ。右上の点(丶)は、単なる記号的な区別にとどまらず、儀式において犠牲となった犬の血、あるいは聖なる印を象徴しているという見解すら存在する。この衝撃的な由来を知ると、日常の風景が一変して見えるはずだ。