村のあちこちから立ち上る白い湯煙。野沢温泉の象徴とも言えるのが、村内に点在する十三の「外湯」だ。江戸時代から続くこれらの共同浴場は、観光施設ではなく、今なお住民の生活の場として大切に維持されている。
早朝、大湯の引き戸を開けると、硫黄の香りと共に強い熱気が押し寄せてくる。熱い。思わず足がすくむほどの源泉掛け流し。地元のお年寄りが「もっと水を足していいよ」と優しく声をかけてくれた。ここでは観光客も村の一員のように迎え入れられる。
維持管理を担うのは「湯仲間」と呼ばれる住民組織だ。近年では、キャッシュレス決済によるデジタル協力金の仕組みがさりげなく導入され、歴史ある木造建築の情緒を損なうことなく、世界中からの志を回収するシステムが機能している。古いルールを押し付けるのではなく、時代の道具を賢く取り入れながら文化を守る。その柔軟さこそが、この村の強みだ。