田園調布は、日本を代表する閑静な高級住宅街として名高い。放射状に伸びる街道、整然と並ぶ街路樹、静寂を守る住民たちの気品。この街に長嶋氏が居を構えたことは、当時のプロ野球界全体にとってもエポックメイキングな出来事だった。
昭和初期から中期にかけて、職業野球の選手は必ずしも社会的に高い評価ばかりを受けていたわけではない。そこに現れたスーパースターが立教大学から巨人軍に入団し、日本中を魅了した。彼が一流の住宅街に居を構えた事実は、「プロアスリートが子供たちの夢であり、社会的憧れの頂点に立った」証拠でもあった。街の空気感をひと目確かめたいと願う人々が後を絶たない背景には、そうした日本社会の構造変化と歴史が重なっている。