ガラガラと引き戸を開けると、香ばしい木と湯気の匂いが鼻腔をくすぐる。かつて日本各地で見られた伝統的な湯治スタイルは、時代の波とともに急速に姿を消しかけていた。しかしここでは、その古い習慣がまったく新しい価値として息を吹き返している。
脱衣場には最新のスマートロッカーと並び、職人が磨き上げた使い込まれた木製文机が置かれている。一見すると相反する要素が、不思議な調和を保つ。湯守の職人は語る。「変えてはならないのは湯質と客への敬意だけ。それ以外は時代に合わせてしなやかに変えていけばいい」。この割り切りこそが、若い世代を惹きつける最大の要因だ。