リング上の猛威とは裏腹に、彼女の本当の名は中野恵子(なかの けいこ)という。若き日にプロレスの門をたたき、厳しい鍛錬のなかで「悪役」としての生き生きとした狂気を演じきった彼女だが、ペイントの下には素朴で美しい素顔が隠されていた。リングを下りれば、誰よりも礼儀正しく繊細な神経の持ち主であったことは、当時の関係者の間では知られた話だ。
現役時代、試合終了後にメイクを落として街を歩いていても、周囲の人間は誰もあの大悪党ブル中野だとは気づかなかったというエピソードがある。巨大な木刀を振り回し、相手をたたきのめしていた人物と、透き通るような肌と優しい目元を持つ女性が同一人物だとは、到底結びつかなかったからだ。