実際のところ、激しく揺れる馬上でなみなみと注がれた酒を味わうのは至難の業だ。現代の研究者や武芸考証家の間では、日常の移動中に飲んでいたというよりも、出陣に際して馬を下りずにお別れの杯を交わす「馬上盃の儀」のような厳粛な式典で用いられた可能性が高いとみられている。
大陸から渡来した磁器の足付盃にルーツを持つ馬上杯だが、国内では漆器や金属、焼き物など様々な素材へと発展した。指先でしっかりと脚部を握り込める構造は、籠手や手袋をはめた武士の手元でも安定する。実用性と美観を完璧に同居させた、まさに戦国デザインの最高峰といえる。