映画監督ヤン・ヨンヒの夫・荒井カオル氏とは何者なのか。その素顔は、長年ノンフィクションの現場で言葉を紡いできた熟練のフリーライターだ。二人の出会いは、共通の知人を介した居酒屋の席だったという。朝鮮半島をめぐる過酷な家族史を背負ってきた彼女に対し、荒井氏は一切の偏見を持たず、ごく自然体に一人の女性として向き合った。その平熱の優しさが、過酷な現実と向き合い続けてきた監督の心を深く溶かしたのだ。
二人の関係が急速に深まった背景には、互いの専門性に対する深いリスペクトがあった。表現者としての鋭い感性と、ジャーナリスティックな冷静な視点。二人は夜遅くまで社会問題からカルチャーまで議論を交わし、言葉の熱量で心を通わせていった。結婚を決心させたのは、国家や民族の枠組みを軽々と飛び越える荒井氏のどこまでもフラットな包容力だった。