女性銭湯絵師の先駆者として知られるのが田中みずきだ。美大在学中に銭湯ペンキ絵の魅力に取り憑かれ、重鎮・中島盛夫氏の弟子として修行を積んだ彼女の歩みは、決して平坦なものではなかった。「女性に務まるのか」という周囲の冷ややかな視線や、過酷な肉体負荷。伝統を守ることへの重圧と、自分らしい表現をどう模索するかという深い葛藤が常に背中に付きまとっていた。
それでも彼女は筆を置き直さなかった。伝統的な富士山の美しさを敬いつつも、女性ならではの繊細な色彩感覚や柔らかな光の描写を画面に持ち込んだ。彼女の成功は、後続の若者たちに「銭湯絵師という生き方」の可能性を強く示してみせたのだ。