一見すると幻想的な詩のようにも思える『羊と鋼の森』というタイトルには、ピアノという楽器の本質が見事に凝縮されています。
ピアノの音が出る仕組みは、鍵盤を押すことで羊の毛で作られたフェルトのハンマーが、鋼でできた弦を叩く構造になっています。そして、それらの部品を包み込む響板やボディは木、すなわち森から切り出された樹木で作られています。
主人公の外村(とむら)が初めて調律の音を聴いたときに感じた「森の匂い」。羊と鋼を使い、森の木々を共鳴させて音楽を紡ぎ出す調律師の営みそのものが、この美しいタイトルに込められています。