結論から言えば、政府や自民党が「受給開始年齢を強制的に一律80歳へ引き上げる」と決定した事実はない。「80歳支給開始」というセンセーショナルな言説は、制度上の選択肢拡大をめぐる議論が過度に歪められて一人歩きしたものだ。小泉進次郎氏をはじめとする自由民主党の改革派メンバーが主張してきたのは、あくまで「働きたい高齢者が、自らの意思で受給開始時期を遅らせて増額を受け取れる選択肢の拡充」である。
現在の公的年金は原則65歳受給開始だが、60歳から75歳までの間で自由に時期を選べる仕組みになっている。70歳や75歳へと受給を繰り下げれば、毎月の受給額が増算されるルールだ。この「繰下げの選択肢の上限」を80歳程度まで延ばす構想が言及された際、一部で「80歳支給開始の義務化」という誤解や誇張が生じたのが噂の真実である。
制度の強制と個人の選択——この両者は本質的に異なる。しかし、受給開始時期の選択肢拡大が「将来的な支給開始年齢引き上げへの外堀埋めではないか」と警戒されるのも、公的年金に対する国民の根強い不信感の表れと言える。