箱根路の厳しさを最も象徴するのが、途中棄権(アクシデント)と繰り上げスタート(白いタスキ)です。日本テレビの中継や各種ドキュメンタリーで幾度となくクローズアップされるこの場面には、現場でしか分からない過酷な実情が存在します。
途中棄権の主な要因は、脱水症状、低体温症、大腿骨や中足骨の疲労骨折です。長年現場を取材してきたスポーツライターは次のように語ります。
「箱根駅伝を走るランナーは、100人を超える部員、支えてくれた裏方、学校の看板、そして何より『母校のタスキ』という強大な心理的負荷を背負っています。自分の足が限界を迎え、意識が朦朧としていても、絶対に自ら立ち止まることはありません。かつて途中棄権となった走者の多くが、レース後の手記で『倒れる瞬間の記憶がない』『タスキを繋げなかった罪悪感で、何年も正月のテレビを見られなかった』と告白しています」
中継所の審判員がピストルを構え、母校のタスキを待つ走者の目の前で「無情の号砲」が鳴り響く繰り上げスタート。近年、先頭チームのタイムが大幅に高速化したことで、鶴見中継所や戸塚中継所での「先頭通過から20分」という制限時間が以前にも増して厳格なハードルとして立ちはだかっています。
SNSやネット掲示板では「繰り上げスタートは残酷すぎる」「ルールを緩和すべきだ」という同情論が毎年巻き起こります。しかし、関東学連の運営関係者によれば、箱根駅伝は一般公道を大規模に封鎖して開催されるレースであり、首都圏の幹線道路である国道1号線や15号線の交通規制時間を延長することは警察行政上極めて困難です。安全確保と都市機能維持という現実の制約があるからこそ、あの過酷なルールが維持されているという背景を忘れてはなりません。