電撃移転の直接的な引き金となったのは、移転発表のわずか数週間前、カタール・ドーハで開催された世界陸上選手権だった。深夜に行われた女子マラソンで、出場選手の実に4割以上が過酷な熱帯夜の湿度と暑さによって途中棄権(DNF)に追い込まれたのである。アスリートが路上に倒れ込む凄惨な映像は世界中に衝撃を与え、競技団体や国際競技組織への批判が激しい暴風となって吹き荒れた。
この事態を受けて急速に危機感を強めたのが、陸上競技を統括するワールドアスレティックス(世界陸連)と国際オリンピック委員会(IOC)だった。日本の夏がドーハと同等、あるいはそれ以上の危険な酷暑を孕んでいることは気象データ上明らかであり、生命の危険すら懸念されていた。だが、酷暑回避という大義名分があったとはいえ、その後の決定プロセスはあまりにも一方的だった。