生理前の抑えきれない過食衝動の背景には、排卵後から分泌が急増する黄体ホルモン(プロゲステロン)の存在があります。この時期、女性の体内は妊娠の成立と維持に向けた準備モードへと大きくシフトします。子宮内膜を厚く保ち、胎児へ十分な栄養を届ける態勢を整えるため、本能的にエネルギーや水分、脂肪を体内に蓄え込もうとするスイッチが入るのです。プロゲステロンによる食欲増加は、生物学的な生存戦略そのものと言えます。
さらに見逃せないのが、脳内の神経伝達物質の急激な変化です。排卵を境に、精神を安定させるエストロゲンの分泌が減少すると、幸福ホルモンと呼ばれる生理前のセロトニン不足が引き起こされます。脳は低下したセロトニンを迅速に合成しようと、その原料となるトリプトファンの取り込みを促すインスリンを分泌させようとします。その手っ取り早い手段が、手軽に血糖値を引き上げる糖質の摂取です。これが、生理前に甘いものが食べたくなる理由の根本的な正体です。
加えて、黄体期はインスリンの効果が鈍くなる「インスリン抵抗性」が生じやすい時期でもあります。食後に血糖値が急上昇し、それを下げるためにインスリンが過剰分泌され、今度は一気に低血糖へと急降下します。この激しい血糖値のアップダウンが、脳に「エネルギーが枯渇した」という偽りの飢餓シグナルを送り、生理前の食欲が抑えられない理由を強固に作り出しているのです。