蕎麦を最も美味しく味わうための作法には、すべて理にかなった科学的な理由が存在します。基本の食べ方を押さえておくことで、一杯の完成度を格段に引き上げることができます。
蕎麦が運ばれてきたら、時間が経つにつれて麺同士がくっつき、繊細な香りとコシが失われてしまうため、運ばれた直後に手早く手繰るのが最大の鉄則です。まずはつゆをつけずに二〜三筋をそのまま啜り、蕎麦本来の穀物の香りと冷水で締められたコシの締まり具合を確かめます。
つゆにつける際は、蕎麦全体をどっぷりと浸すのではなく、箸で持った蕎麦の先端から三分の一から半分程度を軽く浸すのが理想です。濃口に仕立てられた江戸前の辛汁であれば、蕎麦の風味を消さず、つゆの出汁感と蕎麦の香ばしさを口の中で調和させることができます。
薬味の扱いにもコツがあります。特に本わさびはつゆに溶かしてしまうと、揮発性の香気成分が出汁の油分や塩分に吸着されて風味が損なわれます。蕎麦の上に少量のわさびを直接乗せ、つゆを少しだけつけて啜ることで、ツンと抜ける鮮烈な香りと蕎麦の甘みが際立ちます。
食後の締めくくりに欠かせない「そば湯」は、単なる口直しの白湯ではありません。蕎麦に含まれるポリフェノールの一種「ルチン」をはじめ、ビタミンB1・B2、水溶性食物繊維、必須アミノ酸などの水溶性栄養素の多くは、茹で汁の中に溶け出しています。
ルチンには毛細血管を強化し、血圧降下や抗酸化作用を助ける健康効果が確認されています。残ったつゆを適量のそば湯で割り、出汁の余韻を味わいながらゆっくりと飲み干すことで、蕎麦が持つ豊富な栄養成分を無駄なく摂取できるのです。