日本茶の世界で古くから茶摘み唄として親しまれてきた言葉に「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」というフレーズがあります。この表現は単なる語呂合わせではなく、各産地の気候風土、茶葉の栽培アプローチ、そして仕上げ加工技術の特性を極めて正確に言い表したものです。
まず「色は静岡」と称される背景には、静岡県で確立された深蒸し茶技術の普及があります。茶葉の生葉を通常の2〜3倍の時間(約60〜120秒)じっくり蒸し上げることで、茶葉の組織が細かく崩れ、急須で淹れた際に鮮やかな深緑色の水色(すいしょく)とまろやかなコクが抽出されます。苦渋味が抑えられ、現代人の味覚にも極めてなじみやすい特長を持っています。
続く「香りは宇治よ」は、京都・宇治に代表される覆下(おおいした)栽培と伝統的な浅蒸し製法に由来します。茶摘みの数週間前から茶園を遮光資材で覆うことで、アミノ酸(テアニン)の含有量を高め、カテキンへの変化を抑制します。これにより、青海苔や覆い香(おおいか)と呼ばれる高貴で清々しい芳香と、濃厚な旨味が際立ちます。
そして「味は狭山でとどめさす」の根拠となるのが、埼玉県特有の冷涼な気候と狭山火入れと呼ばれる独自の高温乾燥仕上げです。冬の厳しい寒さを耐え抜いた茶葉は肉厚に育ちます。この厚みのある茶葉に職人が高い熱を加えてじっくり焙煎することで、独特の香ばしさと重厚な甘みが引き出され、口に含んだ後も喉の奥に余韻が長く残る力強い味わいが完成します。