この言葉の難しさは、国内の印刷物にとどまらず、映像制作業界にも波及している。小津安二郎監督の名作映画『東京物語』に象徴されるような、繊細な人間模様を描いた不朽のヒューマンドラマ。劇中で交わされる微妙な空気感を含む台詞は、映像翻訳者にとって最大の難所の一つだ。
現在、NetflixやHBO Maxといった世界的なストリーミングサービスが日本の名作や最新ドラマを世界中に配信している。日本語の「気が置けない」というニュアンスを、英語の「easy to get along with」や「comfortable to be around」などに翻訳する際、オリジナルの日本語音声を聞いた若い世代の国内視聴者が「字幕の訳とセリフのニュアンスがズレているのでは?」と誤解してSNSで発信する現象さえ起きている。映像制作業界では、セリフの文字数制限と直感的なわかりやすさを両立させるため、あえて「気が置けない」という伝統的表現を避け、「気兼ねいらない」「気さくな」といった言い換えを選択するケースが増えている。