民俗学者が長年指摘してきた最有力説のひとつが、気象光学現象による「錯視」だ。海水温と大気温の急激な温度差によって光が屈折する上位蜃気楼は、はるか彼方の小さな島や鯨の背中、あるいは自船の影を数倍から数十倍の大きさに歪めて海上に投影する。
夜間の海上では視界が極度に制限され、水平線の位置すら曖昧になる。そこへ月光や星明かりが不均一に射し込むことで、脳は認識不能な視覚情報を「巨大な人間の頭部」として補正してしまう。極限状態におかれた船乗りたちの脳が見せた幻覚——それが現代科学の導き出した物理的な解釈の一端である。