世代を超えて読者の胸を締め付ける最大の疑問が、ピーター・パンとウェンディの関係性の着地点です。作中において二人は惹かれ合っているように見えながら、最終的には決定的な決別を迎えます。この結末は単なるすれ違いではなく、二人の間に横たわる「愛の定義」と「人間的成熟度」の断絶が引き起こした必然でした。
原典におけるピーターパンとウェンディの年齢差と設定を精査すると、その歪さが浮き彫りになります。ウェンディ・モイラー・アンジェラ・ダーリングは、子ども部屋からの卒業を宣告された12〜13歳前後の少女であり、思春期の入り口で自立と大人の女性への変化に戸惑う過渡期にいます。対するピーター・パンは、乳歯すら生え変わっていないとされる推定年齢7〜10歳前後のまま、ネバーランドで時を止めた少年です。
ウェンディがピーターに抱いた感情には、淡い初恋のときめきとロマンスへの憧憬が含まれていました。しかし、ピーターがウェンディに求めたものは、恋愛対象としての女性ではなく、自分たちの世話を焼き、物語を語り聞かせ、無条件に全肯定してくれる「都合の良い母親の代用」に過ぎませんでした。ウェンディが「私のこと、どう思っているの?」と問いかけた際、ピーターが言い放った「献身的な息子さ」という言葉は、二人の間に横たわる決定的な認識のズレを象徴しています。
象徴的なのが、二人の間で行われる「キスのやり取り」です。ピーターはキスという概念すら理解しておらず、ウェンディから贈られた指貫(シンブル)をキスだと思い込み、自身はどんぐりのボタンを返します。この肉体的な接触や精神的成熟を頑なに拒絶する無性的な存在であるピーターに対し、ウェンディは次第に違和感と孤独を深めていきました。
ウェンディがネバーランドを離れて大人になる理由を選択した決定打は、ネバーランドの永遠性が「空虚な停滞」に過ぎないと気づいた瞬間にあります。ロストボーイズたちが本物の家族の温もりを忘れ、ピーターの気まぐれに付き従うだけの人形と化している現実を目の当たりにし、彼女は「老いること」「死ぬこと」、そして「他者を責任を持って愛すること」を受け入れる覚悟を決めました。二人が結ばれなかったのは、ピーターが子供のままであり続けたからではなく、ウェンディが真の人間へと成長してしまったからなのです。