瀬戸田の平山郁夫美術館を訪れてまず圧倒されるのは、展示空間全体に漂う静謐さと、絵筆に込められた圧倒的な精神性です。館内には幼少期の非凡な絵日記やスケッチ、東京美術学校(現・東京藝術大学)時代の習作から、画壇での地位を確立した代表作、そして晩年の壮大なシルクロード連作に至るまで、画家の生涯を追体験できる動線が綿密に設計されています。
平山郁夫という画家の根底には、15歳の夏に広島で被爆した壮絶な記憶が存在します。自著や生前の特別インタビューにおいて、画伯は次のような痛切な告白を残しています。
「原爆の閃光を浴び、生き残った自分には何ができるのか。死と隣り合わせの白血球減少症と闘いながら、救いを求めて辿り着いたのが三蔵法師の求法の旅であり、仏教東漸の道だった」
1959年に発表され、事実上の出世作となった『仏教伝来』をはじめ、灼熱の砂漠を進む隊商を描いた『シルクロードを行くキャラバン』、群青と黄金が織りなす神秘的な夜の砂漠など、平山代表作のシルクロードシリーズに込められた「平和への祈り」は、混沌とする現代において一層強い輝きを放ちます。
また、美術館自体の建築美も見どころの一つです。瀬戸内の自然光がやわらかく差し込む設計となっており、館内のハイビジョンシアターでは、平山画伯の足跡や絵画技法の秘密を解説する特別映像が常時上映されています。平山郁夫美術館の展覧会(2026年企画展)では、季節ごとにテーマを変えた所蔵品展が精力的に展開されており、いつ訪れても新たな発見に出会えるキュレーションが高く評価されています。