小五郎の射撃技術が物語の根幹に関わる屈指のエピソードが、劇場版第2作『名探偵コナン 14番目の標的』です。当時、捜査一課の刑事だった小五郎は、逮捕に追い詰められた強盗殺人犯・村上丈に妻の妃英理を人質として取られるという、絶体絶命の危機に直面しました。
銃口を英理の頭部に突きつけ、後退しながら逃亡を図る犯人。その緊迫した現場で、小五郎は躊躇なく引き金を引きました。放たれた凶弾は、なんと最愛の妻である英理の太ももをかすめ、負傷させたのです。一見すると「動揺して人質を誤射した大失態」に見えるこの発砲劇の裏には、極限の修羅場で導き出した冷徹な救出ロジックが存在していました。
人質が無傷で健康な状態であれば、犯人にとっては身を守る盾であり、連れて逃げる価値のある存在です。しかし、足を負傷して自力歩行ができなくなれば、人質は逃亡のスピードを著しく削ぐ「ただの足手まといの重荷」へと成り下がります。小五郎は、英理の命を奪わず、かつ歩行能力だけを奪うミリ単位の射撃を行い、犯人に人質を放棄させる状況を意図的に作り出したのです。結果として村上丈は英理をその場に遺棄し、追撃した警察によって確保されました。
しかし、人質を意図的に狙撃した行為は、警察組織の内部規律において到底容認されるものではありませんでした。重大な不祥事として厳しい査問に晒された小五郎ですが、彼が刑事を辞職した決定的な真相は、組織からの処罰だけではありませんでした。
事件後、足の手傷に耐えながら感謝の思いを込めて夕食を作った英理に対し、小五郎は「足を怪我してるくせに、こんなクソ不味いもん作ってんじゃねぇ!」と怒鳴り散らします。妻に無理をさせたくないという極端に不器用な気遣いが最悪の言葉となって暴発し、激怒した英理は家を出て別居状態となりました。人質を危険に晒さざるを得なかった己の無力さ、組織の枷、そして何より愛する妻を傷つけてしまった後悔――複雑に絡み合った責任を一身に背負い、彼は自ら警察手帳を返上して私立探偵事務所を開業する道を選びました。