そもそも、金属に歯を立てて品質を確かめる行為は、19世紀のゴールドラッシュ時代にまで遡る。当時の商人や金鉱採掘者たちは、差し出された金貨が本物であるかをその場で識別する必要があった。純金は極めて柔らかい性質を持つため、強く噛むと表面に歯型が残る。一方で、鉛や真鍮に薄い金を被せた偽物は硬く、噛んでも痕がつかないか、最悪の場合は歯が欠けてしまう。
この泥臭い鑑定作業が、時代を経て「本物の金を手に入れた証」という象徴的なイメージへと形を変えた。ただし、現代のオリンピックで授与される金メダルは純金製ではない。国際規定により、92.5パーセント以上の純銀をベースに最低6グラムの純金でメッキ加工されているため、実際に噛んだところで純度を証明することはできない。歴史的習慣が形骸化し、ポーズとしてのみ残った典型例と言える。