ナスDの肌を漆黒に染め上げた元凶は、現地で「ウィト」と呼ばれる果実の果汁だ。原住民はこの汁を魔除けや虫除け、そしてボディーペイントとして体に塗る。ウィトに含まれる天然の化学成分「ゲニピン」が、皮膚表面の角質層に含まれるアミノ酸と反応することで、強固な青紫色の色素が形成される仕組みになっている。これは刺青のように皮膚の奥深く(真皮層)に針で色素を注入するわけではない。あくまで表皮の最外層である角質細胞に強力な皮膚色素沈着を引き起こす化学反応だ。
化学的な「染色」が完了した皮膚は、いくら石鹸で擦ろうが漂白剤をつけようが落ちることはない。しかし、人間の皮膚には「ターンオーバー(新陳代謝)」という強力な自己再生機能が存在する。角質層は通常、約28日周期で新しい細胞へと押し出され、古い角質は垢となって剥がれ落ちていく。ナスDの場合、顔面全体に極めて濃度の高いウィト果汁を塗りたくっていたため、角質層の深くまで染色が及んでおり、完全に落ちきるまでに数ヶ月という異例の時間を要したのだ。