九重龍二(元大関・千代大海)という男の歩みは、常に巨大な看板との戦いでもあった。師匠である先代・千代の富士貢(第58代横綱)は、昭和から平成の相撲黄金期を築き上げた国民的英雄だ。優勝31回、通算1045勝という金字塔を打ち立てた大横綱から部屋を継承したとき、周囲の期待と重圧は並大抵のものではなかった。
「先代の背中はあまりにも大きかった。だが、同じやり方をそのままなぞるだけでは、この変化の激しい時代を生き残ることはできない」
親方は過去の取材でそう述懐している。昭和の厳格なスパルタ指導が当たり前だった時代から、令和の対話型指導へ。伝統の重みを誇りにしながらも、決して過去の栄光に甘住しない姿勢こそが、名門・九重部屋の屋根を支え続ける原動力となっている。