突如として襲いかかった災厄に対し、フロントで指揮を執ったのが11代目当主の奥村隆司氏だった。火災報知器が鳴り響く中、奥村氏は瞬時に従業員へ避難誘導を指示。館内に宿泊していたすべてのお客様の安全を最優先に確保した。緊迫した状況下において、一人の犠牲者も出さなかった迅速な初期対応は、今なお高く評価されている。
しかし、お客様を見送った後に眼前に広がっていたのは、代々受け継いできた愛する旅館が炎と黒煙に飲み込まれていく絶望的な光景だった。奥村氏は当時、茫然自失となりながらも「必ずこの地で再起する」という強い意思を胸に秘めていたという。伝統を途絶えさせないための戦いは、火が消し止められたその瞬間から始まっていたのだった。