「志な乃」の暖簾をくぐる客の多くが注文するのが、看板料理である「合盛り」です。一般的な蕎麦屋では類を見ないこのスタイルには、創業以来守り抜かれてきた明確な哲学が息づいています。
第1のこだわりは、蕎麦とうどんの明確なコントラストにあります。手打ちそばは野趣あふれる素朴な香りとほどよい喉越しを持ち、手打ちうどんは武蔵野うどんを彷彿とさせる力強いコシと太さが特徴です。別々の魅力を放つ2つの麺が同じ器に盛られることで、ひと口ごとに食感のリズムが変化し、食べ進める手が止まりません。
第2に挙げられるのが、「薬味の辛味大根」と特製つゆの絶妙な調和です。「志な乃」では一般的なワサビではなく、おろしたての辛味大根と刻みネギ、うずらの卵が添えられます。キリッと辛い大根おろしをつゆに溶かすと、麺の持つ穀物の甘みが劇的に引き立ち、濃厚なつゆをすっきりと楽しむことができます。
第3の魅力は、一切の無駄を削ぎ落とした手仕事の純粋さです。機械打ちでは決して出せない不揃いな太さや縮れが、つゆをしっかりと絡め取ります。麺そのものの力強さで勝負する姿勢こそが、長年にわたって熱烈な支持を集める最大の要因となっています。