風邪をきっかけとする耳の不調において、特に注意を要するのが「片耳だけ聞こえにくい」という訴えです。両耳の耳管が均等に炎症を起こすケースもありますが、鼻中隔の湾曲や片側の鼻づまりの悪化、あるいは鼻のかみ方の偏りによって、病原菌が片方の中耳に集中して侵入することは日常診療で頻繁に確認されます。
片耳だけの閉塞感や難聴の背景には、主に以下の病態が存在します。
- 急性中耳炎:急激なズキズキする耳の痛み、発熱(小児では38度以上になることも多い)、鼓膜の発赤と膨隆。鼓膜が破れると耳だれ(耳漏)が流出し、痛みは一時的に軽減しますが、聞こえにくさは残ります。
- 滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん):急性中耳炎の炎症が治まりきらない場合や、耳管狭窄が長引いた結果、中耳腔にサラサラあるいは粘り気のある液体(浸出液)が溜まる疾患です。耳の痛みや発熱がほとんどないため発見が遅れやすく、「水の中に潜っているような感覚」「頭を傾けると耳の中でポコポコ音がする」といった難聴症状が主訴となります。
- 突発性難聴などの内耳疾患:風邪のウイルス感染や体調悪化による血流障害を契機に、音を神経シグナルに変換する「内耳」の有毛細胞が突如ダメージを受けるケースです。「朝起きたら片耳が全く聞こえない」「キーンという金属音のような激しい耳鳴りが止まらない」という症状が特徴であり、発症から72時間以内のステロイド治療開始が生涯の聴力を左右します。
痛みを伴わないからといって軽視すると、滲出性中耳炎が数ヶ月にわたって固定化し、中耳の粘膜が変性して鼓膜が骨に癒着する「癒着性中耳炎」や「真珠腫性中耳炎」といった難治性の病態へと進行する危険を孕んでいます。