発熱時に「梅干しを食べると風邪が治る」という言説を耳にしますが、厳密な医学的見地から言えば、梅干しが抗ウイルス薬のように直接ウイルスを死滅させて熱を下げるわけではありません。しかし、発熱時における梅干しの効果は、生体が病原体と戦うプロセスを多角的にバックアップする点において非常に優れています。
人間が高熱を出すと、体温調節のために大量の発汗が起こり、水分とともにナトリウムやカリウムといった必須ミネラルが体外へ急速に排出されます。この脱水状態に対して、発熱時の塩分補給とクエン酸の補給源として梅干しは極めて理想的なバランスを誇ります。梅干しに含まれる高濃度の有機酸(主にクエン酸)は、エネルギー産生の要である「TCAサイクル(クエン酸回路)」を活性化させ、発熱で激しく消耗した体力の回復を早める働きを担います。
さらに、和歌山県立医科大学などの研究機関による検証では、梅に含まれるポリフェノール化合物(エポキシリオニレシノールなど)がウイルスの増殖を抑制する作用を持つことが報告されており、インフルエンザの予防や初期症状の悪化防止に対する補助的アプローチとしても学術的な裏付けが進んでいます。つまり、「風邪そのものを一瞬で治す魔法の特効薬」ではないものの、脱水防止・電解質補正・エネルギー代謝促進という三重の防衛機構を支える優秀なサポーティブフードであるというのが科学の導き出した結論です。