「ハヒフヘホ〜!」というあの甲高い哄笑は、台本に書かれた文字をただ読んでいるだけでは決して生まれない。中尾隆聖がばいきんまんと向き合うとき、そこには徹底した「感情のリアリティ」が存在する。いたずらを思いついた瞬間の子供のような純粋な悪巧み、アンパンマンに吹き飛ばされたときの悔しさと諦めない執念。中尾はそのすべてを、喉の奥から絞り出すような独自のトーンで構築した。
現場で語り継がれる逸話がある。台本上の短いリアクション指示に対し、中尾はキャラクターの呼吸そのものをアドリブで埋めていく。息遣いひとつ、舌打ちひとつにキャラクターの生き様を宿らせる。過酷な競争が続く声優業界において、35年以上にわたり第一線で役を深化させ続ける秘訣は、「悪役こそ誰よりも人間らしく、エネルギーに満ちていなければならない」という飽くなき探求心にある。