多くの読者が公式と錯覚するほど心を揺さぶられた「電池切れ編」。そのプロットは、SF作品としても極めて完成度の高い構造を持っています。ここでその詳細なあらすじとネタバレを振り返ります。
ある日、のび太が学校から帰ると、ドラえもんが微動だにせず倒れていました。いくら声をかけても、尻尾のスイッチを引っ張っても反応がありません。パニックになったのび太は、タイムマシンで妹のドラミちゃんを呼び出します。
そこでドラミから告げられたのは残酷な事実でした。ドラえもんは「バッテリー切れ(電池切れ)」を起こしていたのです。
「バッテリーを交換すればいいじゃないか」と安堵するのび太に対し、ドラミはさらなる絶望的な事実を明かします。ドラえもんは旧式のネコ型ロボットであり、バックアップ用の記憶保持回路がネズミにかじられて失われた「耳」の中に内蔵されていたという設定です。そのため、新しくバッテリーを入れ替えて再起動すると、のび太と過ごしたすべての記憶が完全に消去され、初期状態に戻ってしまうというのです。
「記憶を失ったドラえもんを動かすか」「記憶を保ったまま動かないドラえもんと生きるか」――。ドラミから二者択一を迫られた少年時代ののび太は、ドラえもんの体をそのまま静かに押し入れへ戻し、ドラミにタイムマシンで未来へ帰るよう告げます。
その日を境に、のび太の人生は激変しました。何をやってもダメだった少年は別人のように猛勉強を始めます。中学、高校、大学へと進学し、周囲が驚嘆するほどの努力を重ねてトップクラスのロボット工学者へと成長を遂げます。
そして数十年後。髭を蓄え、立派な科学者となったのび太は、妻となったしずかちゃんが見守る研究所で、長年保存していたドラえもんの修復オペレーションに挑みます。記憶回路を保持したまま安全に起動させる新技術を、自らの頭脳だけで開発し遂げたのです。
技術を結集したスイッチが入った瞬間、長い眠りから覚めたドラえもんは、かつてと全く変わらない笑顔でこう言います。
「のび太くん、宿題はすんだのかい?」
幼少期ののび太を救ったドラえもんを、大人になったのび太が救い、実は「ドラえもんを開発した天才科学者こそが大人になったのび太自身だった」というタイムパラドックスの美しさ。これが世界中で涙を誘った電池切れ編の全貌です。