作家としての原点は、若き日に過ごした明治学院での学びにあった。西洋文学やキリスト教思想との出会いは、思春期の藤村に大きな精神的揺さぶりを与える。この時期に培われた感性が実を結んだのが、日本近代詩の曙となった詩集『若菜集』である。
「まだあげ初めし前髪の」で始まる瑞々しい詩句は、当時の若者たちの心を熱狂させた。しかし、彼は浪漫派詩人としての成功に安住しなかった。時代の変化とともに、より現実の生々しい人間ドラマを描く自然主義文学の潮流へと足を踏み出していく。
旧居跡に残された書斎の遺構や当時の資料を観察すると、詩的で美しい描写を捨ててまで、なぜ彼が現実の過酷さを直視する散文の世界へと向かったのか、その苦悩の足跡がくっきりと浮き彫りになる。