現在、日本の食品衛生法において指定されている「保存料」は、用途が明確に限定されており、使用できる食品の種類や最大使用基準量が極めて厳密に定められています。主要な保存料の特徴と懸念される毒性の実態を整理します。
国内の加工食品で最も汎用されているのがソルビン酸およびソルビン酸カリウムです。かまぼこなどの練り製品、ハム・ソーセージ、チーズ、ジャムなどに広く用いられています。ソルビン酸はカビや酵母、好気性菌の発育を抑制する有機酸で、自然界ではナナカマドの未熟果汁などにも微量に含まれる成分です。毒性試験においては、高用量を長期間投与した場合に肝臓への影響などが議論されたものの、生体内に入ると通常の脂肪酸と同様に代謝されて二酸化炭素と水に分解・体外排出されるため、体内に蓄積する性質はありません。
一方、清涼飲料水や栄養ドリンク、醤油などに使われる安息香酸および安息香酸ナトリウムに関しては、「発がん性の真相」が長年ネット上で議論の的になってきました。安息香酸自体に直接的な発がん性は認められていませんが、2000年代半ば、清涼飲料水中でアスコルビン酸(ビタミンC)と共存した際に微量の「ベンゼン(発がん性物質)」が生成されるという問題が欧米を中心に発覚しました。この報道が一人歩きし、安息香酸=発がん性という強い印象を残すことになりました。しかし、この問題を受けて国内外の食品安全当局が直ちに実態調査を行い、飲料業界も製造工程の見直しや配合変更を実施しました。現在の流通品におけるベンゼン濃度は水道水基準(10ppb)を大幅に下回る安全圏に抑制されており、健康被害を生じる水準にはありません。
安全性を担保する中核となっているのが、厚生労働省と食品安全委員会が設定する厳格な添加物安全基準です。国は動物実験から得られた「何の影響も認められなかった最大投与量(無毒性量:NOAEL)」に対し、動物と人間の種差(10倍)および個人差(10倍)を掛け合わせた100分の1の安全係数を適用し、人間が一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康影響が出ない「一日摂取許容量(ADI)」を算出しています。加工食品に添加される量は、このADIを遥かに下回る範囲内に法的に制限されています。
なお、消費者の間では「合成保存料は危険で、天然保存料は安全」という思い込みが根強く存在します。しかし、毒性学の観点では合成か天然かという起源は毒性の強弱と一切関係がありません。自然界に存在するフグ毒やトリカブトが猛毒であるのと同様に、天然由来成分であっても過剰に摂取すれば生体に負荷がかかります。公的機関による安全審査を同一の厳密さでクリアしている以上、科学的なリスク評価において合成と天然の優劣をつけること自体に合理性はありません。