三木のり平の映画キャリアを語る上で欠かせないのが、日本映画界のドン・森繁久彌とのライバル関係であり盟友関係です。東宝の大ヒット映画『社長シリーズ』や『喜劇駅前シリーズ』において、二人が繰り広げた丁々発止の掛け合いは、まさに昭和日本映画の最高峰でした。
社長シリーズにおけるのり平は、森繁演じる社長を接待の席で翻弄する宴会部長や取引先の曲者役として登場。宴会芸で見せた「パパ芸」(赤ん坊の泣き真似)などの奇行は、台本を遥かに凌駕する爆笑を生み出しました。主演の森繁久彌は後年の対談で「のり平が画面に入ってくると、主役の僕すら食われてしまう。毎日が真剣勝負の果たし合いだった」と述懐しています。大スターであった森繁をしてそこまで言わしめた喜劇人は、のり平の他に存在しませんでした。
さらに、映画ファンを驚かせたのが市川崑監督の映画『犬神家の一族』(1976年版)で見せた演技です。那須ホテルの主人役として出演したのり平は、事件に巻き込まれる宿泊客(石坂浩二演じる金田一耕助)とコミカルながらも不穏なリアリティをもって絡み、陰惨なサスペンス劇に絶妙な清涼飲料水のようなアクセントをもたらしました。シリアスとコメディの境界線を軽やかに飛び越えるその存在感は、まさに唯一無二でした。