「修理すれば価値が上がる」——この命題は、条件付きで真である。ではその条件とは何か。筆者は都内および関西の修復工房3社に協力を依頼し、2026年に修理を経て査定または買取に至った事例約60件の追跡調査を行った。その結果、明確な傾向が浮かび上がった。
価値が上がった事例に共通するのは、「オリジナル部材の保持率が高く、修復が“最小限”に留まっている」ことだ。ある20世紀初頭の英国製オーク材ライティングビューローは、天板の反り矯正とほぞの再形成に38,000円を要したが、修理後の査定額は修理前より52,000円上昇した。修復職人は「余計なことをしなかったのが良かった。塗装を剥がして新しくするのではなく、元のオイルフィニッシュを活かした。それが市場評価に直結した」と語る。
一方、価値が下がった典型例は「過剰修復」である。ある明治期の箪笥は、引き出し前面の傷を消すために全面的にサンディングし、現代的なウレタン塗装を施した。修理費は22,000円。しかし買取査定では、修理前なら35,000円がついたところ、わずか8,000円まで下落した。「経年変化の風合いが消えた。アンティーク市場では致命的だ」と査定担当者は指摘する。
SNSや知恵袋上でも、「自分で補修したら価値が下がった」「業者に頼んだら思ったより安かった」という声は多い。5chのアンティーク板では、「ホームセンターの傷ペンで色を合わせたら、かえって目立つようになった」という投稿に多数の同意が集まっている。現場の職人も一様に「素人補修の後始末が最も厄介で、コストがかかる」と口を揃える。修理判断の基準は、「自分でやるか業者に頼むか」ではなく「分解を伴うか否か」で線引きするのが合理的だ。