アヒル口(duck face)は、唇を前方に突き出し、口角をわずかに上げる表情を指す。日本では2000年代後半から2010年代にかけて、若年女性の写真撮影時の定番ポーズとして定着した。しかし、その心理的メカニズムは単純ではない。
表情心理学の領域では、口元をすぼめる動作は「拒否」「不満」「疑念」の表出と結びつくことが多い。だがアヒル口の場合は、唇を突き出すことで口輪筋が収縮し、結果として唇がふっくらと見える。この「ふっくらした唇」は、進化心理学的には若さと健康の指標とされ、無意識のうちに異性の注意を引く効果を持つ。
つまりアヒル口には、「拒否の表情」と「魅了の表情」という相反する要素が同居している。この二面性こそが、アヒル口の心理を理解する鍵となる。本人が意図しているか否かによって、受け手の印象は正反対に振れるのだ。
2026年現在、TikTokやInstagramのショート動画では、アヒル口を「あざとさ」の記号として戦略的に使う層がいる一方で、自然な笑みの延長として無意識に口元がすぼまる層もいる。この二つは見た目が似ていても、心理的由来はまったく異なる。