売春防止法から半世紀以上が経過した現在、SNSの普及とともに「赤線跡地探訪」が静かなブームとなっています。しかし、現地の状況は急速な転換点を迎えています。
実際に現地へ足を運ぶと、往年のカフェー建築は加速度的に消失しています。建物の所有者の高齢化、建材のモルタル崩落や耐震基準の未達、さらに相続に伴う土地売却により、ここ数年でコインパーキングや真新しいアパートへの建て替えが激増しました。「鳩の街」通りでも、かつて写真集の表紙を飾ったアイコニックなタイル貼りの元店舗が解体され、往時の面影を留める建物は数えるほどになっています。
現場を歩く愛好家や研究者のコミュニティでは、探索における「マナーと倫理」が強く議論されています。赤線跡を単なる「映えるレトロ建築」として面白半分に消費することへの反省です。近隣住民の声を聞くと、「昔の街の暗部を観光地のようにカメラでジロジロ見られたくない」「現在も普通に生活している住宅地なのに、プライバシーを侵害されている」といった切実な苦情が散見されます。
赤線跡を観察する際は、住民の平穏な日常を最優先にし、敷地内への無断立ち入りや住居の無遠慮な撮影を厳に慎む姿勢が求められます。そこはかつて、女性たちが過酷な運命に耐えながら生き抜いた場所であり、今を生きる人々の静かな生活空間でもあるという自覚が不可欠です。