大人世代へのアンケート調査において、なぜこれほど多くの人が「万 書き順 2画目」を「ノ」だと誤認してしまうのでしょうか。そこには人間の認知パターンと漢字の形態的類似性に起因する複合的な理由が存在します。
第1の理由は、「九」や「左」といった類似文字の筆順ルールとの混同です。小学校低学年で習う「九」は、1画目が「ノ(左払い)」で2画目が「横折曲鉤(フのように曲がってハネる線)」という順序を取ります。文字の骨格が似ているため、「万」を書く際にも無意識に「先に払いを下ろしてからカギを作る」という運動記憶が作動してしまうのです。
第2の理由は、手書きのスピードと行書(崩し字)の運筆感覚にあります。書道や日常の走り書きにおいて、横棒を引いた後にそのまま左下へペンを滑らせる運筆(一→ノ→フ)は手の構造上スムーズに感じられる場合があります。歴史的な古文書や書道史においても草書体などでは払いを先に書く流派が存在したため、大人の感覚としてその書き癖が定着してしまったケースが多々見受けられます。
しかし、現代日本の公教育および公的基準(昭和33年文部省制定『筆順指導の手引き』および現行の文部科学省・学習指導要領)において、万 常用漢字の筆順は厳格に「一 → 𠃌 → ノ」と統一されています。