『ウルトラマンA』が提示した「男女合体変身」というコンセプトは、昭和特撮史において極めて先駆的な試みでした。平和を愛する看護師・南夕子と、熱血漢のパン配送員・北斗星司が、理不尽に命を奪われた人々を救うために殉職し、その勇気を讃えたウルトラ兄弟から命と力を託される――。第1話「輝け!ウルトラ五兄弟」で描かれた運命的な幕開けは、視聴者に強いインパクトを与えました。
しかし、第28話「さようなら夕子よ、月の妹よ」をもって南夕子は突如として番組を去ります。演じた星光子さん自身、台本を手渡されるまで一切知らされていなかったというこの途中退場劇の引き金となったのは、制作現場とスポンサーが直面していたシビアな商業的現実でした。
当時の制作関係者やTBS側の証言によると、最大の壁となったのは「子どもたちの変身ごっこ遊び」における心理的ハードルでした。ウルトラマンシリーズの主たる視聴者層である男児の間で、「男女が手を取り合って変身する」というシチュエーションが照れや気恥ずかしさを生み、玩具「ウルトラリング」の販売促進や日常的な遊びとして浸透しきれなかったのです。男児同士で指輪を合わせる遊びに違和感を抱く声や、変身シーンの再現の難しさが現場へフィードバックされていました。
さらに、裏番組との激しい視聴率争いも影を落とします。第1クールこそ好調な滑り出しを見せたものの、徐々に数字が伸び悩む中で、円谷プロ上層部とTBS編成部は「ヒーロー像の単純明快化」へと舵を切る決断を下しました。北斗星司の単独変身へと移行し、アクションとドラマの焦点を一本化することが、打開策として浮上したのです。