連日多くの人々を行列へと駆り立てるマーラータンの中毒性の理由は、単なる「激辛ブーム」の一言では片付けられません。食品生理学と脳科学の観点から見ると、唐辛子に含まれるカプサイシンによる鋭い辛味と、四川花椒由来のサンショオールが引き起こす舌の痺れ(麻)が組み合わさることで、脳内でエンドルフィンやドーパミンといった快感物質が分泌されるサイクルが生まれています。
また、スープのベースとなる牛骨や鶏ガラを何時間も煮込み、八角、桂皮、草果、クコの実など20〜30種類に及ぶ薬膳生薬を抽出した深い出汁のコクが、刺激の奥にある強烈な旨味を形成しています。取材現場で出会った20代の女性客は「最初は辛さに驚いたが、3日経つとあの痺れと牛骨のまろやかさが無性に恋しくなり、週に3回は難波や心斎橋の店舗に通っている」と語るなど、リピート率の高さは群を抜いています。
さらに、外食産業における「パーソナライズ化」の流れもブームを後押ししています。固定されたメニューを食べるのではなく、数十種類並ぶ冷蔵ショーケースから「自分だけのオリジナルの一杯」を組み立てる体験そのものが、SNS時代の自己表現や満足感と完璧に合致しているといえます。