ネット上の口コミやQ&Aサイトでは、「リタッチカラーと白髪染めは根本的に別のメニューなのか」「市販の薬剤でセルフリタッチしてもプロと仕上がりは変わらないのではないか」といった誤認が根強く存在します。これらの実態について、ケミカルの視点から正確に整理しておきましょう。
まず、白髪染めリタッチとファッションカラーリタッチの違いですが、基本原理は全く同じ「新生部のみを染める工程」です。異なるのは薬剤の配合比率にあります。白髪染めには、透明な白髪をしっかり覆い隠すための「濃厚なブラウン色素(染料濃度)」が大量に含まれており、脱色力よりも染色力が強化されています。対して、ファッションカラーは地毛の黒いメラニン色素を適度に脱色(リフト)しながら、目的の染料を浸透させます。白髪染めの履歴がある部分に明るいファッションカラーを重ねても脱色が難しいため、プロの現場では過去の染髪履歴を精緻にヒアリングしたうえで薬剤を選定しています。
そして最も警鐘を鳴らすべきは、ドラッグストア等で購入できる市販薬を用いた「セルフリタッチ」の失敗事例です。セルフカラー剤は、誰の髪でも短時間で染まるよう、強めのアルカリ剤と高い過酸化水素濃度(日本では法定上限6%)で設計されています。自身で合わせ鏡を見ながら塗布する場合、後頭部や見えにくい内側で「すでに染まっている中間毛」に薬剤がはみ出して重複塗布(オーバーラップ)される事故が多発します。
この重複塗布が繰り返されると、その境界部分のタンパク質が破壊されて炭化・断毛を起こすほか、染料が重なり合って沈殿し、光に透かした際に帯状の黒ずみ(リタッチ帯・カラーバンド)が発生します。一度できてしまったカラーバンドは、サロンで特殊な脱染剤を用いても均一に戻すのが極めて困難です。材料費数百円を惜しんだ結果、数万円の修復施術が必要になるケースは現場で後を絶ちません。