『最後の晩餐』を理解する上で避けて通れないのが、レオナルドが採用した「描画技法」と、それに伴う過酷な劣化・修復の歴史です。当時の壁画制作で標準的だった「フレスコ技法」は、漆喰が乾かないうちに一気に描き上げる必要があり、熟考しながら少しずつ筆を入れたいレオナルドの制作スタイルには合いませんでした。そこで彼は、乾燥した漆喰の上にテンペラと油彩を重ねる実験的な技法を選択したのです。
食堂という湿気の多い環境下で、油彩とテンペラの皮膜は完成後わずか20年足らずで壁面から浮き上がり始めました。16世紀の画家・伝記作家ジョルジョ・ヴァザーリが訪れた際には、すでに「斑点しか見えない」と記されるほど劣化が進んでいたと伝えられています。後世の画家たちによる無思慮な上塗りを経て、1978年から女性主任修復家ピニン・ブランビッラ氏らの手で20年超に及ぶ精密な修復作業が行われ、レオナルド自身が塗ったオリジナルの色彩が奇跡的に姿を現しました。