この変化の波に最も激しく揺さぶられたのが、昭和の雰囲気を色濃く残す老舗の「純喫茶」だ。琥珀色に染まった壁紙とネルドリップコーヒー、そして漂う紫煙。それらが織りなす独特の情緒を売りにしてきた個人店にとって、法改正は経営の根幹を揺るがす出来事だった。
既存の小規模店舗に認められた経過措置を適用し、主食の提供を取りやめて「たばこ販売業」の許可を取得。「喫煙目的施設」として存続を図る老舗も少なくない。長年愛されたナポリタンやサンドイッチをメニューから外し、乾き物やドリンク中心へと舵を切ってでも、常連客が紫煙をくゆらせる憩いの場を守る道を選んだのだ。
一方で、昨今のレトロブームで純喫茶を訪れるようになったZ世代をはじめとする非喫煙者の新規客と、「昔からの居場所」を守りたい既存顧客との間で挟み撃ちになるケースも多い。居心地の良さをどう定義し直すか、個人の名店たちは今もなお模索を続けている。