日本の出版業界において、佐藤紅緑の名を知らぬ者はいない。明治時代、劇作や小説で大衆の心を掴んだ紅緑は、豪快な性格と破天荒な生き方で知られた。酒と借金、そして女性問題が絶えない人物でありながら、その原稿は圧倒的な読者の支持を集め続けたのである。
その血を最も濃厚に引き継いだのが、長男のサトウハチローだった。少年時代から素行不良で鑑別所に出入りを繰り返すなど、父・紅緑を大いに悩ませたハチローだが、ペンを持てば繊細で哀愁を帯びた詩を紡ぎ出す天才的な詩人へと変貌した。破天荒な父と、破滅的な生活を送る兄。この強烈な個性の衝突が、佐藤家の日常であり、文壇の伝説となったのだ。