売れない若手俳優と、それを支える女性。昭和の演劇界では珍しくない構図かもしれないが、二人の絆はとりわけ強固だった。劇団「青俳」の養成所で出会った二人は、まだ蟹江敬三が何者でもなかった時代から苦楽を共にしてきた。当時の演劇界は熱気に満ちていたが、経済的には困窮を極めるのが常だった。日々の食費にも事欠く中、彼女は夫の才能を信じて疑わなかったという。
「いつか必ず世に出る」。その確信だけが、彼女を突き動かしていた。アルバイトを掛け持ちしながら、役者としての夫の牙を研ぎ澄まさせる環境を作り上げた。この下積み時代こそが、後年の名優・蟹江敬三を形作る強固な土台となったのだ。