しかし、メロスを単なる「なまけもの」と断定するのは早計だ。彼が真の力を発揮したのは、結婚式を終えて親友のもとへ引き返す復路の後半、特に濁流を泳ぎ切り、山賊を撃退したあとの土壇場である。
肉体の限界に達し、一度は野原に倒れ伏して絶望したメロスだったが、清涼な水を口にして息を吹き返すと、まさに鬼神の如きラストスパートを見せる。後半の数キロメートルにおける試算速度は時速20kmを超えており、これは短距離走者に匹敵する驚異的な爆走だ。平均速度の遅さは、途中の極度な休息やトラブルによるロスタイムが引き起こしたものであり、最後の最後で見せたスパートこそが彼の全力を物語っている。