自衛隊において、女性パイロットの登用が急速に進んだ背景には、数十年にわたる制度改革と医学的エビデンスの蓄積がありました。1993年に自衛隊は女性自衛官に対する自衛隊配置制限を大幅に見直し、輸送機や救難機、連絡機などのコックピットを女性に開放しました。しかし、戦闘機および護衛艦の一部など、過酷な肉体的負荷や戦闘被害の危険が高い職域については「母性の保護」を理由に長らく配置制限が維持されていたのです。
特に戦闘機に関しては、「高いG(重力加速度)が女性特有の生殖機能や胎児に悪影響を及ぼすのではないか」「肉体的な筋力差から高機動に耐えられないのではないか」といった懸念が防衛省内で根強く存在していました。しかし、アメリカ軍やNATO諸国軍では1990年代から2000年代にかけて女性戦闘機パイロットが実戦投入され、航空医学のデータが蓄積されていきました。その結果、適正な訓練とフィジカルトレーニングを積めば、G耐性や空間認識能力に男女間の本質的な身体能力差はないことが国際的な常識となったのです。
こうした国際的潮流と少子高齢化に伴う自衛官の募集環境の変化、そして政府の女性活躍推進施策が後押しとなり、防衛省は2015年11月に戦闘機操縦士の女性配置制限を正式に撤廃しました。さらに2017年には海上自衛隊の潜水艦に対する配置制限も解除され、現在では特殊作戦部隊などの一部を除き、自衛隊のほぼすべての職域が女性に開かれています。大谷三穂元1等海佐(自衛隊初の女性護衛艦艦長)や東良子海将補(初の女性護衛隊司令)といった海上自衛隊の先駆者たちと同様に、空の領域でも女性が指揮を執る基盤が整備されたのです。