中国の食文化において「冷たいご飯を食べる」行為は、長年タブー視されてきた。体に負担をかけるという中医学的な考え方が根強いためだ。現地進出を果たした初期の日系チェーンが直面した最大の壁も、まさにこの「冷飯」に対する強固な抵抗感だった。
ヒットの引き金となった意外な理由は、徹底した「温食化」と「具材の現地化」にある。レジ横での電子レンジ温めサービスの徹底はもちろんのこと、店内厨房で炊き立ての米をその場で握る「温かいおにぎり専門店」の形態が急速に普及した。さらに、中身にも革新が起きた。伝統的な梅干しやツナマヨにとどまらず、咸蛋黄(塩漬け卵黄)や麻辣小龍蝦(ザリガニのピリ辛炒め)、小籠包風の豚角煮など、現地消費者の味覚を刺激する濃い目の味付けが次々と開発された。日本の伝統技術と中華の力強い味わいが融合したことで、おにぎりは「異国の冷食」から「身近な極上ファストフード」へと劇的な進化を遂げたのだ。