深夜2時30分、都内某所の路地裏に佇む人気店。昼間の営業を終えて静まり返るどころか、厨房では巨大な寸胴鍋を前に店主が汗をぬぐっていた。昼営業のスープとは明らかに色合いが異なる。彼らが仕込んでいるのは、深夜客のためだけに配合を変えた「裏スープ」だ。
「昼のスープをそのまま出しても、深夜のお客様は満足しません」と店主は明かす。夜が深まるにつれ、人間の味覚はアルコールの影響や疲労によって塩分と旨味の感度が鈍る。そのため、深夜専用の仕込みでは、ゲンコツ(豚の大腿骨)をあえて粗く砕いて追加投入する「追いガラ」を行い、ゼラチン質と遊離アミノ酸の濃度を一気に引き上げるのだ。さらに、香味油には焦がしニンニクや背脂の粒度を変えた特製オイルをブレンド。昼には出せないエッジの効いたコクを意図的に創出している。
さらに見逃せないのが、午前1時以降にしか券売機に現れない「深夜限定メニュー」の存在だ。取材班が確認したのは、昼の清湯(澄んだスープ)とは対照的な、超濃厚煮干しに背脂を雪のように降らせた限定麺や、辛味オイルでコーティングされた深夜仕様のまぜそば。これらは仕込みの過程で出る端材や濃縮ダレを巧みに活用し、深夜客の背徳感を極限まで刺激するよう緻密に計算されていた。