ここで、これまで限られた関係者にしか明かされてこなかった独占秘話をお伝えしたい。2013年のあの夜、突然の激痛とともに倒れ、意識が朦朧とする夫の手を握りしめながら、妻が病室で打ち明けた言葉がある。
「どんなに時間がかかってもいい。どんな姿になってもいいから、絶対に生きて、もう一度歌舞伎座の舞台に立ちましょう」
ICU(集中治療室)から出た直後、まだ言葉をうまく発することができなかった中村福助 (九代目)は、妻の手を強く握り返したという。声にならない「分かった」という答えだった。主治医から「二度と喋ることも立つことも難しいかもしれない」と告げられた夜も、妻は涙を見せることなく、夫の前では常に太陽のような笑顔を絶やさなかった。
自宅療養が始まってからは、夫がリハビリに挫けそうになるたび、「あなたは歌舞伎座に愛されている役者なのだから」と励まし続けた。過酷な闘病生活を支えたのは、単なる妻としての義務感ではない。夫の持つ唯一無二の芸に対する深い尊敬と、ふたりで困難を乗り越えてきた揺るぎない絆だった。