村山由佳という表現者の歩みは、そのまま彼女の人生における愛の変遷と重なり合う。1990年代に世に送り出された『天使の卵』(集英社)は、透明感あふれる純愛の金字塔として一世を風靡した。だが、時代の変化とともに彼女の視線はより複雑な人間の業へと注がれるようになる。そして生み出されたのが、直木三十五賞受章後の到達点とも言える『ダブル・ファンタジー』(文藝春秋)だ。
この作品で描かれたのは、女性の本能と自由、そして解き放たれる欲望だった。当時の出版業界に激震を与えた衝撃作の背景には、彼女自身が経験してきた過去の葛藤や人間関係の痛みが色濃く反映されていると言われる。一連の作品展開を俯瞰すると、現在の夫との穏やかな生活を手に入れたことで、作風に新たな深みと圧倒的な包容力がもたらされたことは疑いようがない。