「見るだけで確認したつもりになる」状態と、実際に「腕を伸ばして指を差し、声に出す」状態の間には、脳の情報処理プロセスにおいて決定的な隔たりが存在します。指差し確認(労働安全衛生分野では主に「指差呼称(しさこしょう)」と呼ばれる)が持つ絶大なヒューマンエラー防止効果は、感覚器官の連動による大脳皮質の覚醒に起因します。
旧日本国有鉄道の運転保安推進会議や公益財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が実施した有名な心理測定実験では、確認動作の有無によるエラー発生率の劇的な差が明確に記録されています。確認対象を目視するだけの作業に比べ、指差しと声出しを組み合わせることで、操作ミスの頻度は統計的有意差をもって急落します。
人間工学の専門家が提唱する「意識のフェーズ理論」において、通常の単調作業時は意識レベルが低下した「フェーズII(リラックス・低下状態)」に陥りがちです。ここで指を差し、発声し、その音声を自らの耳で聴くというフィードバックループ(感覚遮断の打破)を意図的に発生させることで、脳を瞬時にクリアな判断が下せる「フェーズIII(明快・最適な覚醒状態)」へと引き上げます。エラー発生率が約6分の1に激減する背景には、純粋な生体反応のスイッチングが関わっています。